おとぎ話が大好きな父親エドワード・ブルームと、その息子公ウィルの物語。
大の話し好きのエドワードは、自分の人生で起こった出来事を、おとぎ話風に脚色して語る名人。息子が生まれた日のことも、故郷を出てよそで働いていた頃のことも、何でもおとぎ話にしてしまいます。彼の息子ウィルは、そんな父の話が子供の頃は大好きだったのですが、成長するにつれて「おとぎ風」に隠されて真実が見えないことに疑問といらだちを抱き始めます。そして結婚式を迎える頃、彼の父への不満と不信はピークに達してしまいます・・・。
父と子の現在の関係を説明する導入部分の後は、父親のエドワードが作り上げた物語が、しばらくのあいだ延々と続きます。この話が、最初はあまりにも荒唐無稽かつ冗長なホラ話に思われて、ウィル同様、これは一体なんなのだろうと、少々うんざり気分になってしまいます。しかし、奥さんとの出会いのエピソードの辺りから、だんだんと物語のうちのここは間違いなく事実だろう、ということが見えきます。エドワードは、自分が体験した出来事をそのまま核にして空想を織り交ぜ、大げさな不思議物語を作っているのです。そして、その脚色の色合いで、この人は、きっととても幸せな人生を送ってきたのだ、と気付かされ、それまでいい加減に見えていたエドワードの人柄とお話が、観客にとってもこのうえなく愛すべきものになるのです。
さらに映画が進み、息子の目を通して父親エドワードの実人生が少しすつ証されるにつれ、彼の人生が幸せそのものだったわけではなく、困難な時期を経験しながらも、彼自身の心の中にある力で、幸せを作りだして来たのだ、ということが分かってきます。この映画は、幸福についての物語、もっと言うならば「幸福を作っていく」ことについての物語なのです。
これはまた、「物語」についての物語でもあります。「物語」、あるいは「お話」とは何でしょうか。物語の一つの意味は、現実にあったことに一定の筋をつけることで、その人なりの解釈、意味づけを与えることでしょう。そのことで、目の前の現実は何倍も豊かになり、また、物語の作り手、受け手双方の心の豊かさとなり、幸福となっていく。この映画は、そんな物語の意義を、お話作りの名手エドワードの姿を通じて、ユーモラスに、やんわりと描いています。
父エドワードのこうした姿が見えて来るにつれ、ウィルもだんだんと父親を理解するようになります。そして、終盤、ウィルがついに父親と心を分かち合う場面は、涙なしでは見れませんでした。
父親のおとぎ話の場面は、空想に満ちた、独特の不思議な雰囲気を持っています。特に、エドワードがサンドラに向かって求婚する花畑の場面は、夢のような美しさです。父親の夢が現実となったのか、それとも現実が夢の世界に入り込んだのか、あるいは全てが現実なのか、様々に受け止めることが出来るラストシーンも感動的。忘れがたい余韻を残します。何次元にいるのか分からないような不思議さのあるユアン・マクレガー、ヘレナ・ボナム・カーターの魔女(!)もよかったです。
やがて自分もこんな風に人生を振り返ることが出来たらいいなあ、と思わせてくれる映画でした。
2004年7月24日(土曜日) けいはんなプラザ
エドワード・ブルーム(晩年)
エドワード・ブルーム(青年時代)
ウィル・ブルーム
サンドラ・ブルーム
ジェニファー・ヒル/魔女
アルバート・フィニー
ユアン・マクレガー
ビリー・クラダップ
ジェシカ・ラング
ヘレナ・ボナム=カーター
監督: Tim Burton (ティム・バートン)
キャスト: