南北戦争時代のアメリカ。激しい闘いで負傷した南軍兵士インマンは、故郷で彼を待つ恋人エイダとの再会を果たすため、隊を脱走し、懐かしいコールド・マウンテンを目指す。脱走兵は、見つかれば銃殺。食べ物を手に入れ、雨露をしのぐのもままならない。義勇軍(南軍)に追われ、北軍兵と遭遇し、故郷への道のりは困難を極める・・・

 一方、インマンを待つエイダは牧師の父を亡くして以来、生活に窮し、豊かだった農場も次第に荒れ果ていく。そこへ、風来坊の娘ルビーが現れる。生活力あふれるルビーは、エイダと共に暮らしながら、深窓の令嬢だったエイダに実生活に必要な知恵と技を教えこんでいく・・・
 
 冒頭の戦闘シーンで、戦闘そのものの悲惨さが描かれるだけでなく、インマンの故郷への旅路と、エイダの故郷での生活を通して、戦争が社会全体におよぼす深刻な影響が、克明に描き出される。つらい、心にのしかかるような場面が、刻々と続く。戦争で夫を失った寡婦と生まれたばかりの子供、働き手を失って荒れてゆく農場、残された人々から略奪しようとする敵兵・・・ 

 戦渦が長引き、生きることの困難が増すと、人間社会に巣くう負の部分が増長する。卑怯な人間は、ますます卑劣な方法で人の弱みにつけ入る。脱走兵を匿うそぶりをして家に誘い込み、春を売りお金を巻き上げようとする者、脱走兵狩りをすることで、住民を恐怖に陥れ、強権を振りかざす者、そして、無益に奪われる命・・・ 戦争が引き起こすひずみに、胸を締め上げられるような痛みを覚える。

コールド・マウンテン

2004年8月22日(日曜日) けいはんなプラザ

インマン
エイダ
ルビー
ヴィージー
スタブロッド

ジュード・ロウ
ニコール・キッドマン
レニー・ゼルウィガー
フィリップ・シーモア・ホフマン
ブレンダン・グリーソン

監督: Anthony Mingella (アンソニー・ミンゲラ)

キャスト:

 そんな中、ルビーの助けで、日増しにたくましくなっていくエイダの姿は、唯一の救いであり、希望であろう。深窓の令嬢から、大地に生きる女性に脱皮を遂げる姿は、実に力強く、深い感銘を呼ぶ。

 また、終盤でのルビーの戦争への怒りの叫びは、この作品の底に流れるメッセージの吐露。私は、とても心打たれた。

 物語の最後、愛する人を失う不幸に次々みまわれるエイダと対をなすように、ルビーの方は誰も命を落とさず、家族が揃う幸せに恵まれる。さすがに、エイダがあまりに気の毒に思える。しかし、悲劇を乗り越えてなお新しい命を得、希望を見出したエイダの、凛々しくも母の深い愛情をたたえた表情に心を救われ、また勇気を与えられる。

 そして、ラストシーン。ルビーの家族と共に笑顔で食卓を囲む姿に、温かい未来が映し出される。この映画は、大儀にまみれた戦争やそれに殉ずることにではなく、恋の歓びであれ、家族と共にいる歓びであれ、日々の歓びを大切にする、人間らしい、地に足の着いた個人個人の生き方にこそ、真の未来への希望を託しているのである。
 
 つらいが、ずしりと胸に迫る、骨太な反戦映画。


★余談ですが、この映画の英語は、ものすごい南部訛り。いつもなら多少なりとも聴き取れるのですが、今回はさっぱりでした。特に、ルビーの訛りはすさまじいものがありました。ルビー役のレニー・ゼルウィガーは、テキサス生まれですが、『ブリジット・ジョーンズの日記』で主役を演じた時は、見事にイギリス英語をマスターしていたとか。ここまで訛りを習得するとは、さすが、力のある女優さんです。