大人気のファンタジー、「ハリー・ポッター」シリーズ3作目『ハリー・ポッターとアズカバンの囚人』の映画化です。前2作『ハリー・ポッターと賢者の石』『ハリー・ポッターと秘密の部屋』は、DVDで見ましたが、巷で言われるとおり、今回が一番いい出来だったのではないでしょうか。

 

  まず、素晴らしいのが、スコットランドの大自然の雄大なパノラマをふんだんに織り込んだファンタジックな映像。特に、バックビークの背に乗っての飛行シーンは圧巻。もし子供だったら、自分もあの背中に乗って飛んでみたい、ときっと思うでしょう。緑の森の中での場面も詩情があり、木漏れ日が客席にまでこぼれてくるようです。ホグワーツ魔法学校の内部も、摩訶不思議な雰囲気にあふれています。動く階段を上から俯瞰する画像など、とてもダイナミックです。監督が変われば(前2作の監督はクリス・コロンバス)、こんなに変わるのかという感じです。

 ファンタジー作品では、粗筋や人物描写と並んで、作者が作り上げる架空の世界に展開される世界観がたいへん重要。その世界をどれだけ表現できるかで、作品そのものの魅力が全然違ってきます。今回のハリポタ・ワールドは、その点、実に魅力的。どこか神秘が息づいているような、ファンタジーの世界に息を吹き込んだような空間が、見事に展開していました。

 粗筋も、複雑な原作の鍵となる部分をよく抽出し、大変よくまとまっていました。ディメンターの描写や、最後の逆転時計を使ってのトリックは、よくここまで上手に表現出来たな、と思います。惜しむらくは、抽出しすぎて、大事なところまで省いてしまっていたこと。どうしてハリポタ映画は、いつもこうなってしまうのでしょうか。

 原作は、例によって最後に謎が解き明かされるミステリー仕立てで、今作の場合、ハリーの亡き父親とシリウス・ブラック、ルーピン、そしてペティグリューの4人の関係が、物語の鍵を握っています。ミステリーにとって事件の謎解きは、物語の最大の山場の一つです。原作では、「叫びの屋敷」の場面は重要なヤマ場で、シリウスとルーピンの二人が、ハリーに父親と他の3人の関係を語ることでその謎が明かされ、ハリーとその父親の親友達との絆が強まります。しかし、ここでの4人の関係の説明が不十分なために、原作を読んでいない人には途中からチンプンカンプン。原作既読者も、この話の名場面の一つが描ききれてないことに、消化不良を感じてしまいます。 原作では粗筋にもう少し深く絡んでくるスネイプも、この人間関係の説明不足のせいで、何だか、ただ居るだけのような印象ですし、せっかくいい感じに作り込まれた「忍びの地図」も、十分に粗筋のエッセンスに生かされないまま終わってしまっています。

ハリー・ポッターとアズカバンの囚人

2004年9月18日(土曜日)
梅田ピカデリー

ハリー・ポッター          
ロン・ウィーズリー         
ハーマイオニー・グレンジャー 
シリウス・ブラック         
リーマス・ルーピン        

監督: Alfonso Cuarón(アルフォンソ・キュアロン)

キャスト:

ダニエル・ラドクリフ
ルパート・グリント
エマ・ワトソン
ゲイリー・オールドマン
ディビッド・シューリス

 この作品の上映時間は二時間弱。あと15分も長ければ、この辺を十分に描かれる原作を読んでいなくても充分よく分かる、面白い映画になっていたと思うのですが。原作を読んでいる人のみを対象としているのか?はたまた、映画だけ観た人に謎を投げかけて、原作を読ませようという戦略なのか? 『ロード・オブ・ザ・リング』でも、後追いで発売される完全版のDVDを買わせんがためか、劇場公開版は原作を読んでいない人にはやはり謎が残るような作りでした。商業主義も結構ですが、やはり映画は、劇場公開の本編だけで充分理解できる、きちんと独り立ちした作品として制作して欲しいものです。特にこの映画は、ストーリーの難をのぞいては、とてもよく出来ているだけに残念!

 さて、主役の3人ですが、物語の進行に比して、成長しすぎているのでは?と思いましたが、いざ見てみると、少なくとも私は気になりませんでした。原作によると、『アズカバン』ではハリー達はホグワーツ魔法学校の3年生で13才。映画のパンフによると、ハリー役のダニエル・ラドクリフが14才、ロン役のルパート・グリントが15才、ハーマオーニー役のエマ・ワトソンは13才で映画と同年齢。みんなそれぞれ随分と大人びた感じですが(ロン役の子は設定より2才上なので特に)、あとの二人は、映画の設定とそんなに変わらないんですね。ちょっとびっくり。特にハーマイオニーなんて、もう大人びた美人のお姉さん風です。改めて、向こうの子は大人びるのが早いのねえ、と感心しました。

 ライバルのドラコが髪型を一新し、可愛くなったというのに、ハリー達にいつもやられっぱなしで、随分と情けなくなっていました。ライバル役というのは、もう少しぴしっとしている方が、話に緊張感が出ると思うのですが?新しい登場人物では、シリウスがなかなか素敵で、いい味を出していました。ルーピン先生は、原作ではもっとよれよれの服装で、つねに影と哀愁を背負っていますが、映画では随分と身綺麗で明るく穏やかな人物になっていましたが、これはこれでいいと思いました。ただ、ルーピン先生が変身した人狼のCGは、なんだか狼型宇宙人のような、安っぽいつるつるは虫類系で、これならいっそ普通の毛むくじゃらな狼にして欲しかったと思います。占い学のトレロニー先生が、原作と同じエキセントリックでも、怪しい系ではなくひょうきん系になっていたのには、ちょっと拍子抜けしました。

 総じて、原作では全編にたれこめていた何ともいえない重苦しさがあまりなく、深刻さはストーリーの面白さにのって随分と軽快に流れ、主役が順調に活躍する冒険物語になっています。原作では、それぞれの人物は、もっと苦しい状況に置かれています。ハリーは、もっと八方ふさがりな状況に陥って苦しんでいるし、守護霊を出す魔法も散々苦しんだ末、最後の瀬戸際になってやっと成功することになっています。ロンとハーマイオニーなんて、ペットを巡ってほとんど絶交状態で険悪そのもの。ルーピン先生も、常に哀愁をたたえ、常に影のなかにいるような印象です。原作では、この八方ふさがりの状況を越えていくことで、それぞれの登場人物の成長が描かれるのですが、映画では、みんな初めから凛々しく活躍し、気持ちのよい冒険物語になっています。確かに、その方が映画としては見やすいので、これはこれで楽しくていいと思います。

 『ハリー・ポッター』シリーズの愛読者なら、大画面の醍醐味を存分に味わえる映画です。